群馬県ラグビー部員死亡事件② 金沢様への質問と回答

 

Q:今振り返ってみて、一番大変だったことは何でしょう?

A:「部活動で子供たちのおかれている環境がおかしいのでは、」と思っていましたが、その思いを持ち続けて、確信へと変えていく工程が、とても大変でした。

とくにスポーツ系の部活では、監督が生徒をコントロールする手段に、「監督である自分のいうことが絶対である」という体制をつくろうとします。

当時の息子のいた部は、子供たちに対してだけでなく、親に対しても、同様でした。

なんといっても、当時、指導者達は、長い年月「勝ち続けている」という結果から、自分達の指導は 「正しい指導だ」と自信満々の状態でした。

取り巻く環境も「指導には口を出さないこと」は、当たり前という空気でした。

「当時の部活指導には、疑問を持たない」という環境の、どこから、何から打ち破ったらいいのか。暗闇をさ迷っていた息子死亡後の時期 は、大変な時でした。

 

当時その環境に、少し疑問を持つ父兄や生徒もいたと思うのですが、当たり前、仕方がないという空気の方が主流でした。

「当時の暴力や暴言があった、という指導情報を耳にすると、聞いたことが正しいのかどうかをさらに判断できる情報を探す」この積み重ねをしていく作業を繰り返しました。

一緒にいた部員の貴重な言葉が1番ですが、警戒心がピーンと張り巡らされていた父兄やスタッフを意識しながら、聞いた内容の真偽をこなしていかなければなりませんでした。

私たちの心労はとても深いものでした。

息子の残した、「あいつら人間じゃあない」=ダイイングメッセージ を受け止め解明していく作業の慎重なすすめかたは本当に大変でした。

 

Q:たら、れば、になるかもしれませんが、~しておけばよかった、という事などはありますか?

A:熱があっても、骨折しても監督から「部活を見学させる」のは当たり前。ドクターストップがあっても、監督が走れと言えば走るのは当たり前、「そんなことは、おかしいでしょう」と言える人が居ない のです。

当時の擁護教諭から聞きましたが、息子が亡くなる以前までの対指導者には、生徒の体調を見ている擁護教諭さえ「言っても相手にされず、全く取り合ってもらえなかった、」そうです。

誰かが言って、言われた指導者も考えてみる というコミュニケーションが取れる環境があったなら、きっと悲劇は起きなかった、と、 思っています。

 

Q:活動中、支えになったのは何でしたか?

A:勇気ある息子の同期生達と、当時の養護教諭の気持ちです。

 

息子の死亡後、実は同じ部活でプレーしていた仲間の多くが、受けていた指導に疑問と不信感を持っていたことを、次第に私たちに伝えてくれるようになりました。

「息子の死」も要因にあったようですが、指導者に「抗議文」を出したことも教えてくれました。

また、部活動が始まる前の授業中に、何度か「過呼吸」発作を起こした事実を伝えてくれたのも同期生でした。

加えて、養護教諭が裏付けとなる記録の存在を教えてくれました。

かなり体力消耗するほどの発作であったことを指導者に伝え、「当日は部活は無理です」という時も、部活に出されたこともわかりました。

言いつけるように口に出すものではないというような男の子特有の意識がより強く思い込まされる環境なのか、仕返しのような理不尽な指導が子供自身にまわってくるという現実があったためか、当時の部活内容を批判的に聞いていた家族はほとんどなかったと思います。

 

学校と指導者は自分達の保身のみでしたので、私は心も体もすっかり折れてしまう生活のなか、どのようなことが行われていたかという指導の実態が、少しずつ見えてきたことは、本当に心強いことでした。

裁判を起こすことを決心するのに1年半の歳月がかかりましたが、多くの同じ部活でプレーしていた仲間たちと、環境を見ていた擁護の先生が実態を伝えてくれていたことによって、気持ちも行動も支えられました。

 

Q:昌輝君の事件が起きたのは2002年、10年以上経った今(2013年)、ようやく部活動での体罰や暴力の撲滅に日本のスポーツ界が動き出しました。そのことに関して、何かご意見があればお願いします。

A: 「暴言や暴力は学校教育法で、禁止されている」ことが、ようやくしっかり重く確認され認識されてきたことにたいしては、良かった、と思います。

「ようやく動き始めた」と思います。信念をもって活動しても、歯痒いほど何も前進しなかったのです。

「本当に時間がかかることである、」という悲しい実感です。

そして未だに、暴力暴言の慢性化している事件報道も続いています。

指導現場を見直して変えていくことは、まだまだ大変なことだ、と思います。

 

この裁判に協力してくれた同期生のなかには、将来は教師になるという希望を持っている子もいました。正義感に本当に感謝しています。

その一人であるA君は、裁判で農大二高側に陳述書を提出したことから、教育実習に母校である農大二高に行くことをやめて、他校で実習をしました。

当時、あちこちの校長が、指導で手を出すことや、暴言などはむしろ当たり前の指導と容認している風潮があることも分かった、と教えてくれました。

ほんの7,8年前の様子です。

今は、体罰はいけない、としっかり明言されて、文書として配られていることを知ると、その大きな変化には驚きます。

 
Q:今後、日本のスポーツは良い方向に向かっていくと思われますか?良い方向に向かうため、どの組織がリーダーシップをとっていくのが良いと思われますか?

A:良い方向に向かって欲しいと強く願います。

指導者や先輩からの、強制的一方的な上下関係(ビクビクしたり萎縮したり)ではなく、コミュニケーションをつくり、選手は伸び伸びと楽しみながらプレーする。感情的にミスを怒りまくる暴力暴言や、レギュラーとそうでないメンバーの差別は子供たちに大きい挫折感を持たせ、仲間の連帯感を壊す指導です。

すでに存在しているかもしれませんが、実践を積んだ スポーツ指導者と理論的に研究を積み重ねたスポーツ科学者とが連携し合うシステムづくりも必要です。

この11年を振り返ってみて、そういった先導をどんな組織に求めたら良いのかが、正直なところわからなくなりました。個々のスポーツ組織が機動するのは理想ですが、これからも大変難しいと思います。

 

Q:最後に、スポーツペアレンツの皆さまへメッセージがあればお願いします。

A:子供を守るのは、やはり親です。

指導者から「お任せください。」「指導には一切口を挟まないでください。」と言われた時は、警戒してください。

「人質にとられている」から「指導者のいう通り」という親御さんがいますが、両方共に、とても変ですし危険です。

常にご自分のお子さんは親御さんと家族が見守ってください。

指導者と生徒も、指導者と保護者も、信頼関係が持ち合えるように考えていけたら・・・。

上記のような部活環境にあったなら・・・。と常に思っています。

 

息子の危機に気付けなかったという親としての複雑で悔しい思いと、もう息子のような悲しい出来事は絶対に起きて欲しくない、という思いとが、今も、日により時間により、絶えず頭のなかを交錯しています。

 
 
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たくさんの質問にお答えいただき、本当にありがとうございました。

 

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