アスレティックトレーナー 一原氏インタビュー(2)

<現在のご活動、そしてアスレティックトレーナーというプロフェッショナルについて>

 

Q:現在のアメリカでのご活動について教えてください。

A:マイナーリーグのアスレティックトレーナーとして働いています。野球という競技特性もあり、怪我の予防に重きを置いて選手を見ています。

肩や肘の違和感や張りといったレベルでいかに食い止める事ができるか、早い段階でトリートメントやトレーニングを行い、シーズンを通して戦うためのコンディショニングを徹底しています。

 

また、マイナーリーグのアスレティックトレーナーの仕事で怪我の予防や緊急時対応といったものと同じくらい大事なこととして、マネージャー的な役割を全て我々がする、ということです。

遠征時のタイムスケジュールの管理や食事代の選手スタッフへの配布、他のレベルへ選手が移る際のコーディネイトなども行います。

 

Q:アスレティックトレーナーとは、どんな知識やスキルを持った人ですか?

A: スポーツ現場において、選手一人一人の安全や健康、コンディションなどにフォーカスして練習や試合を見ている人間は唯一アスレティックトレーナーなのだと思います。

普段と比べて動きはおかしくないか?気持ちがダウンしていないか?など、常に選手の状態を第一に考えてスポーツ現場にいる唯一の存在なのだと思います。

 

Q:アスレティックトレーナーがスポーツ現場にいることでのメリットはなんでしょう?また現場で最も必要とされるスキルは何でしょう?

A:コーチの立場から見れば、選手のコンディションや安全面の管理をする人間が別にいる、ということで指導に集中できると思いますね。 

また保護者の方の立場から見れば、子ども達の活動中、安全を管理している人間がいる、ということでかなり安心なのではないでしょうか?

現場で最も必要とされているスキルとして、もちろん緊急時の対応であったりとか、それこそ緊急なのか、そうでないのかの判断する能力ももちろん必要で、それが出来ないのならその場にいる資格もないですし・・・。

 

でも何より、僕が最も必要としているスキルはやはり「コミュニケーション力」なのではないかな?と思っています。対人間の仕事ですから、選手はもちろん、コーチ、ドクター、スタッフ、と密にコミュニケーションを取る必要があります。

 

そして他に大事なのは、「先を読む力」ということでしょうか。何か起きてからさぁどうしよう!ではなく、できうる限りの準備をしておく、想定しておく、ということですね。どんなに準備をしていてもスポーツでアクシデントは起きてしまいます。そしてなかには残念ながら救えない命もあるでしょう。しかし、「できうることを全てやっておく」ということは、やはり予防の観点からも絶対必要なのです。

 

Q:具体的な仕事内容を教えてください。

A:まず安全環境、という面ではEAP(Emergency Action Plan)の作成ですね。アスレティックトレーナーがいるのにEAPがない、ということはまずありませんから。

 

Q:具体的には何を書いておけばいいですか?

A:もし自分のいる現場で何かが起こったら、何が必要だろう?という事を考えて準備していけば良いのではないでしょうか?

AEDはどこだろう?病院はどこだろう?救急車はどこから入ってこられるだろう?などでしょうか。それを書面で共有するということができたらいいですね。

 

Q:ケガ人の情報シェアなどはいかがですか?

A:それは毎日ですね。チーム内での選手たちの状況報告は非常に重要です。

 

Q:予防という面ではいかがでしょう?

A:私はアメフトと野球のトレーナー経験があるのですが、この2つの競技で徹底的に違うのは、アメフトは、痛みが多少あったとしても、テーピングなどをしてやります。ですが野球の場合は、ちょっとした張りがあったら「様子を見ようか」ということになります。

 

Q:競技によって予防というとらえ方も違ってくるという事でしょうか?

A:そうですね。特にアメフトなどは予防しきれないケガも多くあるので・・・。ですが野球で言うと、外傷的なものはそれほど多くはなく、どちらかと言えば慢性的な障害が多いですから、それらを予防するために、練習前に必ず行うエクササイズを徹底したりします。

 

Q:どういうことをするんですか?

A:一般的なことですね、体幹であったりとか、骨盤周りの動きの調整とか・・・。

 

Q:ケガをした選手の復帰までのアスレティックリハビリテーションなども一原さんが?

A:もちろんそうですね。だいたいにおいて、例えば、ケガをして、2週間投げられなかったとしたら、2週間かけて復帰を目指してプログラムを立てていきます。

 

Q:試合の時、一原さんが会場でまず必ずすること、などがあれば教えてください。

A:まずはEAPの確認ですね。

 

Q:それは相手チームのトレーナーなどから渡される、というようなことがあるのでしょうか?

A:基本、ゲーム開催のホームチームがすべて準備する、という事になっています。EAPにおいても事前に準備しておき、招待チームに何かあった場合でも、ホームチームのトレーナーが必要なものを全て準備するのです。

 

Q:試合前に相手チームのトレーナーと情報交換するようなことはありますか?

A:もちろんです。先ほども言いましたが、試合時にはホームチームがすべてを準備するのはいわゆる「マナー」です。

アイシング用の氷はもちろん、スパインボードやAEDの所在地、近隣の病院の名前や電話番号が記載されたEAP、そして必要であればホームチームのかかりつけの病院を紹介することもします。

万が一の時に備えて、相手チームのトレーナーとコミュニケーションや情報交換をしておくということは、絶対に必要です。

 

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