アスレティックトレーナー 八田倫子さんインタビュー(2)

<アスレティックトレーナーというプロフェッショナルについて>

 

Q:アスレティックトレーナーとは、どんな知識やスキルを持った人ですか?

A:身体に関する包括的な知識があり、緊急事態や外傷発生時に対応でき、その予防が考えられて、スポーツ環境を取り巻く色々な立場の方たちとの橋渡しができる人だと考えます。

 

Q:どんな資格を持った人が「アスレティックトレーナー」を名乗ることができますか?

A:いま日本にはこの職業に関する法律や公的資格がないため、勉強をしている人なら誰でもアスレティックトレーナーだと名乗ることができますが、最も知られているのは日本体育協会の公認アスレティックトレーナーかと思います。

 

Q:NATAのATCと日本体育協会のATの違いなどはありますか?

A:現場実習の絶対的な時間数の違いや実習内容があるでしょうか。また緊急対応、頭部頸椎外傷、内科疾患への理解度などはATCのカリキュラムのほうが詳しいのではないかと思います。

 

Q:アスレティックトレーナーがスポーツ現場にいることでのメリットはなんでしょう?また現場で最も必要とされるスキルは何でしょう?

A:リスクマネジメントでしょうか。必要とされるスキルは、緊急時のディシジョンメーキング、そして何よりコミュニケーション力だと思います。

 

Q:八田さんが考える、「アスレティックトレーナーのあるべき姿」とはなんでしょう?仕事としてやっていくために必要なことは、資格以外に何があると思われますか?

A:難しいご質問ですね。あるべき姿と問われれば、いまだ模索中です。

資格以外にあったら良いなと思うものがあるとしたら、よく英語でいうところの

【people person】

でしょうか。

基本的に人が好き、自分のことだけでなく、周囲のことを考えられる人が向いていると感じます。

仕事が忙しくなってきた時、何か大きな決断をせまられた時にこれが出る気がします。

 

Q:八田さんにとって、アスレティックトレーナーの魅力とはなんでしょう?

A:直接、人と接することができる仕事だから、でしょうか。でもこれはどの職業でも同じですね。

 

<部活動サポートのトレーナーとして>

Q:部活動でのサポート内容について具体的にお話しいただけますか?

週に何回ほど?試合や合宿の帯同などもされますか?指導者やマネージャーとの連携などはいかがですか?学校への報告なども行うのでしょうか?

A:現在、ふたつの高校の部活動をみています。頻度が多いほうでお話すると、週に2回行きます。また、公式戦と合宿には必ず帯同します。

指導者は非常に理解ある先生です。マネージャーはいませんが、救急バッグ係という役割の生徒がいて、備品管理などをしてくれます。

大きな外傷があったり、学校のスポーツ保険を利用したりする時は保健室との連携も欠かせません。保健室の先生方も大変協力的で、非常に仕事がしやすい環境にあります。

 

Q:具体的にどのようなタイムスケジュールで動かれているのかご紹介いただけますか?

A:平日は、生徒たちは午後まで授業があるので、保健室に申し送りなどがある場合は、授業時間中に行います。

その後、体育教官室で監督と話をして、グランドへ出ます。練習は2時間半くらいで、その後ウェイトトレーニングのサポートも行います。

休日は、たとえば午前中高校の練習や試合のカバー、午後は中学の公式戦のカバーというように終日になることもありますし、高校の午前練習のみで半日で終了などさまざまです。

 

Q:活動するための部屋、トレーナーズルーム、のようなものはありますか?

A:いえ、全てグランドサイドで行っています。

 

Q:氷などはどこで用意されているのですか?

A:体育教官室にも製氷機がありますし、保健室の氷を使わせていただくこともあります。

 

Q:ケガをした選手のその後のアスレティックリハビリテーションや復帰までのトレーニングも八田さんが?

A:そうですね。

(写真はイメージです)    

Q:場所はどちらで行うのですか?

A:ほぼグランドサイドですね。鏡のあるウェイトルームを使うこともありますが、ウェイトルームへ行ってしまうと全体練習をモニターできなくなってしまうので、極力グランドで行います。

 

Q:病院の診察に付き添うということもあるのでしょうか?

A:ありますね。すべてのケガ、という訳にはいかないですが、難しそうな症例の場合は付き添い、セカンドオピニオンが必要だな、というケースもまたその診察に付き添います

 

Q:学校の部活動をサポートしているアスレティックトレーナーは、日本にどれくらいいらっしゃるのでしょうか?ATCに関して、JATOでその人数を把握していたりするのでしょうか?

A:人数に関しては正直よくわかりません。学校の部活動サポートは、それだけでは収入が成り立たないことが殆どだと思います。

JATO名簿での会員の所属先は、メインの仕事や収入先を記載していることが多いので、所属を学校にしていらっしゃる方は少ないようですが、実際には私と同じような形態で関わっていらっしゃる方は何人もいらっしゃるのではと考えます。

 

Q:アスレティックトレーナー、というとプロやトップレベルのチームや選手について働く、というイメージがあるのですが、八田さんが部活動のトレーナーを続けられてらっしゃる理由を教えてください。

A:そもそもこの年代に関わるためにこの職業を生業にしたからというのが一番です。

 

Q:やはりそこは、「やりがい」というものでしょうか?

A:そうですね、人相手の仕事をすることでのやりがいや感動というのは、毎日感じます。凄くドラマティックなことが起きているわけではないのですが、些細なことでも、「やっていて良かったな」と心から思えます。

 

Q:具体的なお話があればご紹介いただけますか?

A:今見ている高校の保護者の方から、「八田さんがいる日は安心して子供を部活に送り出せる」と頂いたお言葉はとてもうれしかったですね。

 

Q:保護者やそして現在ではまだ指導者や顧問の方も、「スポーツ現場で重大な事故はめったに起こらない」と思っている方もまだ多いのかな、と感じます。日本の学校における部活動での危機管理意識、という視点でお話を伺わせてください。

A:多くの公立の学校では顧問教諭が不在の時は部活動ができないという規則があります。

私立校も学校単位のルールを設けて、工夫した取り組みを行っているところが多いです。

 

Q:悲しいのですが、スポーツ事故や事件は国内でも起きています。このことに対して、その予防策や対応策について、ご意見があればお聞かせください。

A:現場の努力だけで変わらないなら、行政や競技団体がある程度の線引きをすることも必要かと考えます。

アメリカの子どもたちは規則(例:年間を通して同じスポーツに従事しない、真夏に部活はしない、殆どの州で高校にアスレティックトレーナーの配置義務がある等)でかなり慢性障害や熱中症を回避できていると思います。

 

Q:高校や中学の部活動における、生徒に対してのケアや安全面の管理は十分だと思われますか?

A:ニュースでは悪いことばかりが報道されますが、総じて全国の現場の指導者の方々は不断の努力をしていらっしゃると思います。

伸びしろはまだまだあるかもしれませんが、前向きに取り組んでいらっしゃる指導者や教育機関をモデル校としてクローズアップすることも全体的な底上げになるのかもしれませんね。

 

Q:子ども達が安心して、そして安全な環境で学校の部活動に参加するために、私は親としてアスレティックトレーナーが学校に配置されてくれればいいな、と思うのですが(もしくはアスレティックトレーナー部)、八田さんはどのように考えられますか?

A:もちろんそうですね、早稲田実業学校のように専任のアスレティックトレーナーの方が常勤でいらっしゃるのが理想ですね。

ただ、実業団や大学でさえまだトレーナーがいないところもある現状、すべての学校にトレーナーが入るというのは最初のハードルがやや高い気がします。

 

まずは、いま現場に携わっている方たちが、それぞれの立ち場でのリスクマネジメントをしっかりすること、例えば年に一度はCPR/AEDの講習を受ける、EAPを作成するなどのアクションを始めるだけでも危機意識はかなり変わってくると思います。

そうした形が実現できるように、スポーツペアレンツジャパンさんやわたくしどものような活動がアシストとなったら良いですね。

 

高い理想を言えば、アメリカの学校のように、日中は保健室にナースがいて、午後からATC(アスレティックトレーナー)が出勤してきて夜までカバーする、

というようなシステムになったらいいな、とは思いますが・・・

 

Q:練習メニューの強度や時間について、八田さんが顧問の先生たちに意見することなどはありますか?

A:一緒に仕事をする指導者は選手たちをとてもよく観察していらっしゃるので、殆どありません。ごく稀に、意見を述べることがありますが、すべて受け入れて頂けます。とても恵まれた職場環境です。

 

Q:ケガ人の情報共有などは行いますか。

A:それはもちろん行います。

 

Q:トレーナーズバッグには何を入れておられるのかご紹介くださいますか?

A:現場で自分が使うトレーナーズバッグには何十種類も備品が入っていますが、例えばご家庭で簡単なものを準備

されるなら、

使い捨て手袋、ビニール袋、伸縮包帯または梱包用ラップ、滅菌ガーゼ、絆創膏、ハサミ

などがあればまずは十分なのではと思います。夏場は経口補水液があると安心です。

 
>()>