
専門家インタビュー 中村千秋先生<5>
【アスレティックトレーナーについて】
Q:アスレティックトレーナーとは何をする人ですか?
A:狭義でいえば、アスリートが健康で安全にゲームに臨めるように尽力するプロフェッショナル、と言えます。
広義でいえば、アスリートだけでなく身体運動をする人たちが健康で安全に運動を楽しめるように尽力する専門科、とも言えるでしょう。
「スポーツや身体活動における健康と安全」がアスレティックトレーナーのキーワードです。
Q:どんな知識やスキルを持った人ですか?
A:専門知識としては解剖学、生理学・運動生理学、バイオメカニクス、などの基礎知識に加え、栄養学、スポーツ医学、スポーツ障害・外傷、応急処置、リハビリテーション(物理療法とリコンディショニング)などがあげられます。
スキルとしてはケガの評価法、応急処置(固定法、ラッピング法、アイシング、心肺蘇生法、AED)、リコンディショニングなどが必要です。
Q:どんな資格を持った人が「アスレティックトレーナー」を名乗ることができますか?
A:資格という観点では、日本体育協会公認アスレティックトレーナー、NATABOC-ATC(アメリカの資格)、CATA(カナダの資格)が代表的ですが、その他NSCAの資格、JATIの資格などでも「アスレティックトレーナー」を名乗ることができると考えています。
また、PTや鍼灸マッサージ、指圧師、柔道整復師などの国家医療免許を持っている方々も名乗ることができると思います。
さらには、何も資格や免許を持っていなくても、要は「相手のために自分自身の時間とエネルギーを割いている人」であれば誰でも「アスレティックトレーナー」を名乗ることができると考えています。
したがって、勉強中の学生も立派な「アスレティックトレーナー」といえます。
Q:アスレティックトレーナーがスポーツ現場にいることでのメリットはなんでしょう?また現場で最も必要とされるスキルは何でしょう?
A:良いアスレティックトレーナーがスポーツ現場にいることで選手、選手の保護者、監督やコーチ、そして管理者(学校やチームの管理職)の心と時間の負担が圧倒的に軽くなります。
また、選手の安全と健康について専門的なレベルで対応できます。これを実現させるためのスキルとして最も大切なのはコミュニケーション能力であり、調整能力でしょう。もちろん、先に挙げた専門的な知識やスキルが十分あることが前提です。
Q:アスレティックトレーナーが国内でもっと普及するためにはどうしたらいいでしょう?
A:多くの人が様々な切り口で普及に取り組んでいると思いますが、最も大切なのは優秀な人材をこの分野に輩出し続けることだと思います。
この分野というのは決して直接的なアスレティックトレーナーだけを指すわけではなく、アスレティックトレーナーのことをよく知っている社会人すべてを指します。
その人たちは将来子供の親になるかもしれないし、教員になるかもしれないし、スポーツ指導者になるかもしれません。
また、選手として活躍するかもしれないし、放送業界で番組制作者になるかもしれません。
要は、良いアスレティックトレーナーのことがわかっている人材をたくさん世の中に出すことです。
Q;「職業」としての活動場所は国内に多くありますか?これからアスレティックトレーナーを仕事にしたいと思っている学生にアドバイスがあればお願いします。
A:ここ数年間の短期的な評価としては、職場としての活動場所はあまり増えていないように思われます。
ただし、20年間の長期的な評価としてはスポーツ現場だけでなく教育現場やフィットネスクラブなどに職場は増え続けていますし、この傾向はこの先も続くと思います。
学生へのアドバイスは「すでに存在しているものに頼らないで、何もない分野に踏み込んでいって新しいものを創り出してほしい。もしも新しい何かを創り出したら、次はそれを捨ててさらに新しいものを創造してほしい」でしょうか。
すでに敷かれている道を歩んでもエキサイティングではありません。道は自分で敷きなさい。ただし、そのためには独善的ではダメで、多くの人の協力が得られなければいけません。
Q:中村先生が考える、「アスレティックトレーナーのあるべき姿」とはなんでしょう?仕事としてやっていくために必要なことは、資格以外に何があると思われますか?
A:良識的な(良識的であろうと努力している)社会人であること、でしょうか。あるいは、教養深い(教養深くあろうと努力している)社会人であること、でしょうか。
資格はそんなに重要ではないと思います。ただし、雇用する側は資格や免許の有無で判断せざるを得ないことが多いので、この点において資格や免許はあるに越したことはありません。
資格以外あるいはそれ以上に必要なのが「良識的な社会人である」ことです。
Q:先生にとって、アスレティックトレーナーの魅力とはなんでしょう?
A:多くの場合が「対人」であること。様々な人生や生活、感情、環境を共有できること。