専門家インタビュー

日本ライフセービング協会 理事長 小峯 力先生

*小峯先生 ご紹介*

1987年オーストラリアで日本人初のライフセービング・イグザミナー(検定官)資格を取得。

帰国後、国内でライフセービングの普及に努め、2001年から日本ライフセービング協会理事長。

水難事故での一次救命(事故防止システム)の重要性、青少年のセルフレスキュー教育「自分の生命は自分で守る」を全国へ展開。

日本体育大学大学院体育学研究科助手、東京大学医学部看護学校講師、流通経済大学スポーツ健康科学部助教授・教授を経て、現在、中央大学理工学部教授(法学部兼担)

 

著書(共著)に「ライフセービング 歴史と教育」 (学文社) / 「心肺蘇生教本」(大修館書店) / 「サーフライフセービング教本」(大修館書店)など

 

実は、小峯先生は高校までサッカー少年だったそうです。
その先生が何故ライフセービングに関るようになったのか、そのきっかけとなった事件はあまりにも悲しい、あるでき事でした。
 
以下小峯先生の談話より・・・
 
私が18歳の時の夏、ライフセーバーとして湘南海岸の海水浴場で監視をしていました。すると、1人のお母さんが息子の姿が見えない、と言ってきたのです。
仲間とともに必死の捜索をしましたが見つけることはできませんでした。
数時間後に「浜で子供が倒れている!」との一報をうけ、全力で向かいました。
お子さんはすでに意識がない状態でしたが、人工呼吸、心臓マッサージ、救急車要請、とあらゆる手を尽くしました。
 
しかし、結局救うことができませんでした。
 
病院に駆け付けたご両親が、ストレッチャーに寝かされたお子さんの名前を大声で何度も呼び、冷たくなった身体を揺さぶってらっしゃいました。
今でもその光景を忘れることはありません。
 
その後、小峯先生はライフセービングの本拠地、オーストラリアへ。
 
ライフセーバーとして本当に大切なことは、「人命救助」ではなく、ライフセーバーとしての知識や技術を使わないで済むようにすること、つまり「救う」ことではなく「守る」ことが大切なのです。
皆さんが皆さん自身の命を守ることができるならば、皆さんがお子さんや家族、友人を守り、そして救うことができるならば、ライフセーバーは海岸から不要になるのです。
 

Q:ライフセーバーが海からいなくなるのが理想、ということですか?
A:そうです。これは海に限ったことではありません。
極論かもしれませんが、安全な国であれば、全ての人間がルールを守り、誰かを傷つけたり、悪事を働く人間がいなくなれば、警察はいりません。
国民が病気をしなければ、また怪我をしても自分で手当てができるならば、医師もいりません。
つまり、個々が安全を自ら守り、救う(セルフレスキュー)ことができるならば、そこに自分以外を守ったり、救ったりする特別な人間は不要となるのです。
 
重大な事故だけではありません。全ての人がきちんとルールを守り、知識を持ったならば(海をきれいに保つ、ゴミを海岸に捨てない、瓶や缶など、鋭利なものがあったらすぐに拾う、アルコールを飲んで海に入らない、子どもから目を離さない、海での安全な活動方法を知る、など)、そこにライフセーバーは不要です。
 
「誰かがやってくれるだろう」「誰かが助けてくれるだろう」という意識が根付いてしまっては、個々の人間のセルフレスキュー力をつけることができず、事故やケガの発生数を減らすことには繋がらないと思っています。
 
Q:それはちょっと現在の親の育児にも繋がるかもしれませんね。子供を危険から守りたい、という気持ちが過ぎて、「あれもだめ、これは危ないから止めなさい、あそこは危険だから行ってはダメ・・・」と、「事なかれ主義」が過ぎてしまう感じがあります。
加えて、いろいろ口や手を出し過ぎてしまう保護者も。。。
そうすると、子ども自身は危険から身を守るすべや自分を管理する方法が分からず、誰かに頼ることが当然、という意識が根付いてしまいますね。
A:もちろん、命に危険が及んだり、大けがをしそうなことからは、親としてしっかりと子どもを守る必要があります。しかし、あれもこれも禁止し、子どもを守ることばかり、また子どもが失敗することを親が怖がり過ぎてしまっては、子どものセルフレスキュー能力や自立心は育ちません。
 
私は日本ライフセービング協会の代表者として、最大の目的は、この協会の解散だと思っています。
 
Q:協会を解散するんですか?!
A:そうです。なぜなら、ライフセーバーがいなくても、海に来ているすべての人たちが、自分の命を守り、そして家族や友人の命を守りそして救うことができるのならば、そこには特別、「守る」人間や、「救う」人間は不要なのです。
 
Q:ライフセーバーは「人を助ける」のが任務だと思っていたのですが・・・。
A:「救う」という行為は、すでにおぼれた後の行為です。つまり、おぼれた人は救われても「苦しい」という経験をしてしまっています。
私が考える真の人命救助とは、苦しみを与えない事故防止です。
救った人間が、救ったことに満足しているようでは、決して事故は減りません。
 
 

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